【要約・感想】ストラクチャーから書く小説再入門 - K.M.ワイランド、シカ・マッケンジー

本の内容

内容紹介より

本書では、傑作に欠かせない「構成」=ストラクチャーを映画の構成、脚本術をもとに指南します。単なる“ひらめき”を作品化し、独創性と個性を最大限に引き出すために大切なこととは何か。勘を頼りに書けても確かな技術は身に付きません。  物語にインパクトを持たせながらもバランスと整合性を生み、最後まで書ききることができる強い物語に必要なことを、それぞれストーリー(物語)の構成、シーン/シークエル(場面/つなぎ)の構成、文の構成から、丁寧に解説します。

目次

  • Part.1 ストーリーの構成
    • Chapter.01 掴み(フック)
    • Chapter.02 物語をどこから始めるべきか?
    • Chapter.03 最初の章の注意点
    • Chapter.04 第1幕 パート1 : 登場人物の紹介
    • Chapter.05 第1幕 パート2 : 危機と舞台設定の紹介
    • Chapter.06 プロットポイント1
    • Chapter.07 第2幕の前半
    • Chapter.08 第2幕の後半
    • Chapter.09 第3幕
    • Chapter.10 クライマックス
    • Chapter.11 解決
    • Chapter.12 エンディングをさらによくするために
    • Chapter.13 構成についてよくある質問
  • Part.2 シーンの構成
    • Chapter.14 シーン
    • Chapter.15 シーンの「ゴール」の選択肢
    • Chapter.16 シーンの「葛藤」の選択肢
    • Chapter.17 シーンの「災難」の選択肢
    • Chapter.18 シークエル
    • Chapter.19 シークエルの「リアクション」の選択肢
    • Chapter.20 シークエルの「ジレンマ」の選択肢
    • Chapter.21 シークエルの「決断」の選択肢
    • Chapter.22 シーン構成のバリエーション
    • Chapter.23 シーン構成についてよくある質問
  • Part.2 文の構成
    • Chapter.24 文の構成

感想

ハリウッドの脚本術の定説である、三幕構成に基いて小説の構造を説明するというもの。この手の本を読むのは初めてだが、例文が非常に多いため理解しやすい内容であった。

同じ著者の書籍に、『アウトラインから書く小説再入門』があるが、本書を先に読んだほうがより理解が深まると思う。

要約

「ストーリーの構成」についての解説から始まる。なかでも物語の開始地点であり、土台となる第一幕は丁寧に説明されている。

第一幕の掴み

第一幕でまず大事なのは、「掴み」。

位置: 250

「掴み」の形は様々ですが、根底にあるのは「疑問」です。読者が「知りたい」と思えば、掴みは成功。極めて単純です。

位置: 251

どんな小説も、まず最初に紹介するのは登場人物と舞台設定、葛藤[=conflict/二者が対立すること]の三点ですが、いずれにも、まだ掴みは入っていません。読者に「これからどうなるのだろう?」と好奇心を抱かせた時に、初めて掴みが成立します。

また、第一幕では読者に「読みたい」と思わせることが大事である。

位置: 320〜340

「もっと読みたい」と思わせる要因を、五つのパートに分けてみます。

1.疑問を感じさせる。

2.人物を登場させている。

3.舞台設定を伝えている。

4.何かを明確に言い切っている。

5.作品全体のトーンを感じさせる。

小説『高慢と偏見』を「掴み」の例として、紹介している。

位置: 351

「どこの世間も認めることだが、裕福な男は皆、花嫁募集中である」という書き出しは有名。かすかな皮肉がこの先の困難を予想させる、見事なオープニング。

第一幕では、すべての情報を明かす必要はないですが、舞台設定や登場人物、主人公の目的などある程度の情報が必要とされます。

位置: 555

情報を隠し過ぎればサスペンスは成立しません。読者がシチュエーションを理解した上で、成り行きを見守るように仕組まなくてはなりません。

さらにプロローグに関しては、明確な必要性がない限り入れるべきではないと説明する。ただし、以下のように上手く用いれば非常に効果的に読者の関心を誘うことができる。

位置: 611

秀逸なプロローグには、「掴み」にわずかな文章を足した程度の短いものが見られます。人物や物語には少ししか触れず、紹介すらしようとしていません。何らかの重要情報(物語前後の出来事や敵対者の視点など)だけを提示します。できる限り短く、情報量を最小限にとどめれば、プロローグは邪魔になりません。

位置: 673

バックストーリーは、語らない──あるいは、見せない時が最もパワフル。ぼんやり覆う影のようであってこそ力を発揮します。読者はそれを感じ取り、人物に影響するのを見て取ります。ディテールを全部知らせることは大事ではありません。

第一幕の内容

位置: 690

読者の心を掴んだら、本の最初の二〇~二五%で人物や舞台設定、危機を紹介します(全体を三つの「幕」に分けると「第一幕」に当たります。今後、序盤を「第一幕」、中盤を「第二幕」、終盤を「第三幕」という三幕構成に当てはめて説明していきます)

位置: 696

本の最初の二五%で、ストーリーに出てくるものは全て登場させましょう。

位置: 820

人物の登場と同時に、その人物の「大切なもの」も紹介します。その人物が必死で守りたいものです。後にこれをめぐって戦うことになりますから、「大切なもの」を脅かす存在も紹介します。つまり、「敵」も第一幕で紹介するということ。あるいは、少なくとも存在をにおわせておきます。

位置: 855

家族や仕事、名誉などに対する人物の思い入れを描写すればするほど、後でテンションを高めることができます。この「思い入れ」描写ができる場は、第一幕が最初で最後。

位置: 951

名作の第一幕から学べることは?

1.「掴み(フック)」がうまくいったら、後はアクションをスローダウンして人物紹介を深く行なっても大丈夫。

2.人物の主な特徴、動機、信念はしっかり作り込む。

3.作品でメインとなる舞台設定は第一幕で提示。第二幕で説明しようとすると、中盤のペースが落ちてしまう。最初の大きな転機(プロットポイント1)までに読者に設定を見せておく。

4.危機感を高めるには、人物に対する読者の感情移入を図ること。

5.どのシーンにも意味がある。最初の転機(プロットポイント1)に到達するまで、ドミノのような連鎖反応が起きるようにシーンを並べる。

第二幕へのプロットポイント1

全体の25%を経過したあたりで状況が一変する出来事や事件が起き、第二幕へと突入していきます。第一幕で登場人物を魅力的に見せ、舞台を整え、ようやく物語が動き始めるポイントです。これをプロットポイント1と言います。

プロットポイントでは、何の前触れもなく出来事が起きても読者が置いてきぼりにされてしまうため、「インサイティング・イベント」と「キー・イベント」の2つを出来事の前に入れる必要があります。

位置: 1,019

オープニングから二五%地点までの間に必ず置きたいものが二つあります。それが「インサイティング・イベント(物語を誘発する事件)」と「キー・イベント」です。二五%地点までならどこに入れてもOK。

位置: 1,040

インサイティング・イベントとキー・イベントは、大抵、はっきり区別されます。「キー・イベント」とは人物を事件に巻き込む出来事。探偵小説で考えるとわかりやすいです。まず、どこかで事件(インサイティング・イベント)が発生する。あるきっかけで探偵は依頼を受けて(キー・イベント)調査に乗り出す。つまり、インサイティング・イベントによって動き始めた物語に主人公をくっつける糊の役目をするのがキー・イベントです。

位置: 1,044

通説では、インサイティング・イベントは次のどちらかで起こすべしと言われます。一つは、第一章の「掴み」の部分。もう一つは、二五%地点のプロットポイント1。

位置: 1,049

第一幕で書くべき情報を含めた流れで言うと、「冒頭で事件(インサイティング・イベント)発生→舞台設定の説明→人物紹介→主人公が事件に巻き込まれる(キー・イベント)」というような順序でもいいでしょう。

位置: 1,077

過去に起きたインサイティング・イベントを受け、小説の一ページ目が始まる設定も可能。だが、キー・イベントは必ず作中で描き、主人公がプロットに巻き込まれる瞬間を読者に体験してもらう。

第二幕

第二幕の前半は、プロットポイント1を受けて物語が展開されていきます。作品のちょうど中間地点のことを「ミッドポイント」と呼び、第二幕の中間地点にもなるのですが、そこに至る前に「ピンチポイント1」が入ります。

位置: 1,111

第二幕前半の終わり頃(第二幕全体のおよそ八分の三地点)、主人公は「ピンチポイント1」に遭遇します。敵対者が腕を振りかざし、強大な力を見せつけてくるところです(主人公も負けじと対抗するでしょう)。ミッドポイントが来る前に今一度、読者に敵の力を思い出させ、主人公に作戦変更を迫る流れを作ります。また、危機感を高め、クライマックスの伏線を張るのもピンチポイントの役目。

そして、物語の中間地点である「ミッドポイント」。以下のようなことに注意すると良いそうです。

位置: 1,206

1.ミッドポイントは全体の五〇%地点に配置する。目的は、人物が受け身で反応する部分と攻めの行動をする部分を均等にすることと、中心点として際立たせること。

2.ミッドポイントには新鮮でドラマチックな出来事を選ぶ。論理的な流れに沿いつつ、全く新たな展開を引き起こさなくてはならない。

3.ミッドポイントは変化を引き起こす。主人公はそれまでのやり方を変える必要に迫られる。もはや、ただ反応するだけでは立ち行かない。

そして、物語の後半に突入します。前半は出来事に巻き込まれ、敵対者に追い詰められるなど不利な状況が続きますが、後半からは主人公が決意を固め、パワーアップしていきます。

位置: 1,248

この部分を使って人物を鍛え抜き、終盤のクライマックスへと運んで下さいね。失敗から学び、また問題に直面させ、敵(主人公自身が内面に抱える敵も含む)に立ち向かう準備をさせましょう。

位置: 1,248

第二幕後半は準備期間と捉え、後に人物が直視せねばならない欠点を、伏線として描いておきましょう。

第二幕後半のポイント。

位置: 1,321

1.五〇%地点のドラマチックな転機で第二幕後半が始まる。

2.ミッドポイントで主人公はアクション開始。リアクションもするが、無力で受け身な状態からは脱却。力に目覚め、攻めの姿勢に転じる。

3.第二幕後半の真ん中でピンチポイント2。敵の存在と威力を再び提示。

4.第二幕後半は主人公の「気づき」の時。ミッドポイント後は敵のことも自分のことも、前よりはっきり見えてくる。

5.主人公の「気づき」の時期が攻めのアクションと重なることもある。「故意に無視する」だけでも相手への攻撃になる。

6.第二幕後半で主人公の問題は幾分か解決されるが、まだ不完全。内面の欠点や対外的な問題が解決するのは第三幕。第二幕の問題解決は真の対立を悪化させたり、目立たせたりすることがよくある。

第三幕

第三幕に関してのポイントは、ほかに比べると少なめです。主人公が目的を達成し、伏線を回収します。

位置: 1,481

終盤の文章を大きく変えるテクニックが一つ存在します。

それは、終盤の章とシーンを短くするだけ。そうすれば、視点をとる人物間の運びはおのずと速くなり、どんどん速度を上げて結末に突き進む感覚が表現できます。

シーンを短くすると、その中の段落も文も短く書かねばなりません。短い文で歯切れよく進めば、スピード感が出るというわけです。

ハッピーエンドが良いのか、サッドエンドが良いのかなどの説明もありますが、ここでは端折ります。

シーンの構成

次に物語を構成するシーンについてです。シーンは、物語の基本構成単位とも呼べるものです。

位置: 1,954

これから「シーン」を二つに分けて説明します。一つはシーン(主にアクション=出来事や行動を描く部分)、もう一つはシークエル(出来事に対するリアクション=人物の反応を描く部分)。

シーン部分は、「ゴール」「葛藤」「災難」によって構成され、シークエル部分は「リアクション」、「ジレンマ」、「決断」によって構成されます。

シーン部分は出来事であり、シークエル部分はシーンで起きたことを受けた主人公の心情描写などです。たとえば、「あるモンスターを倒すことを目的にダンジョンに向かうが、途中でトラブルが起きて仲間のひとりが亡くなる」というのがシーン部分。それを受けて、「主人公は深い後悔にさいなまれ、あるモンスターの討伐を諦めるかどうか悩み、なんやかんやあって再び挑戦する決意をする」というのがシークエル部分。

シーン部分とシークエル部分は明確に別れている場合もあれば、シーン部分での出来事と同時にリアクションが起きるということもあるそうです。また、いくつかの要素が文脈上端折られることもあります。

シーンのゴール

シーンのゴールについて。

位置: 2,157

1.具体的なもの(品物、人など) 2.無形のもの(尊敬、情報など) 3.身体的な状態からの脱出(身柄の拘束、苦痛など) 4.精神的な状態からの脱出(心配、疑惑、恐怖など) 5.感情的な状態からの脱出(悲しみ、憂鬱など)

位置: 2,164

こうしたゴールを達成するために、よく取られる手段は次のようなものです。

1.情報を求める。

2.情報を隠す。

3.身を隠す。

4.誰かを隠す。

5.誰かと対決する。または、誰かを攻撃する。

6.物を修理したり、破壊したりする。

物語は基本的に「一難去ってまた一難」という流れになります。物語全体のゴールという大目標に向かってシーン毎に小目標があり、それを達成するか失敗し、また新たな小目標が生まれるという感じです。

シーンの葛藤

「葛藤」という言葉だと理解しにくいので、問題や障害と言ったほうが良いかもしれません。

位置: 2,262

人物に多くの欠点を与えましょう。そして、たくさん衝突をさせること。ぶつかり合う動機を与え、敵対人物も作り、葛藤不足にならないようにして下さい。

位置: 2,307

葛藤には次のようなものがあります(これらは一例です)。

1.ケンカ、殴り合い。

2.言い争い、口ゲンカ。

3.物理的な障害(悪天候、道路封鎖、身体の負傷など)。

4.精神的な障害(恐怖、記憶喪失など)。

5.物資の欠如(ケーキを焼くための小麦粉がないなど)。

6.知的財産の欠如(情報が得られない)。

7.行為をしないことによる攻撃(わざと、あるいは無意識に)。

8.間接的な妨害(他の人物が遠まわしに、あるいは無意識に対抗する)。

シーンの災難

目的を持って何かしらの障害や問題に立ち向かい、その結果となるのがこの「災難」です。

位置: 2,386

「災難」とは「まずい結果、よくない出来事」ですから、シーンを構成するブロックの中で最も見つけやすいです。おおまかに、次の種類に分けられます。

1.ゴールへの道が直接的に妨害される(例:情報がほしいのに、相手が教えてくれない)。

2.ゴールへの道が間接的に妨害される(例:出世コースを外される)。

3.ゴールへの道が部分的に妨害される(例:必要なものが部分的にしか手に入らない)。

4.成功したかに見えるが、実は失敗だったことがわかる(例:ほしいものを手に入れるが、むしろそれが害になることが発覚する)。

必ずしも問題に失敗する訳ではないので、次のシーンにつなぐための新たな問題、障害と理解しても良さそうです。

位置: 2,373

プロットの進行上、あえて「災難」を災難らしく見せない時もあります。「ゴールの部分的な妨害」もしくは「うわべだけの勝利」を描く場合です。小説家ジャック・M・ビッカムはこれを「『うまくいったと思いきや』の災難」と呼んでいます。

シークエルのリアクション

シーンでの出来事を受けて、登場人物たちが具体的な行動をとったり、心情変化が起きたりします。

位置: 2,425

シークエル部分では人物が過去を省みたり、落ち着いて会話する様子を通して内面の変化を表現します。実は、この部分が疎かにされがちです。

そして、目的を持って行動したのに災難に見舞われたことから、登場人物の中でジレンマが生まれます。

位置: 2,454

「災難」に遭遇した人物は(大部分は反射的に)反応した後、ジレンマに襲われます。わかりやすく言えば、「じゃあ、どうしよう?」。実際はもう少し具体的です。

次のシーンへ

そして、ジレンマを経て決断がなされます。

位置: 2,460

シーンの結果が「災難」になって新たな問題が生まれ、シークエル部分で状況を分析し、手段を見つけようとする。そして次のシーンで実行する、という流れになります。

位置: 2,467

人物はジレンマを経て決断します。次のシーンに移るためには新たなゴール設定が必要。うまくいくかは別として、新たな計画を立てなくてはなりません。

位置: 2,633

人物の「決断」は、「シーン」のブロックの中で最も本能的に行なわれるものかもしれません。「ジレンマ」を経て「決断」すると、次のシーンのゴールが生まれます。

通過点とハプニング

位置: 2,771

「ストーリーは最初から最後まで全部、シーンとシークエルをつなげて書かないといけないの?」と思う方もいらっしゃるでしょう。中には「葛藤」も「災難」も起きない場面もあります。人物のゴールと関係ない出来事が起きる時もあります。  ルールには常に例外があります。代表的なものは「通過点(incident)」と「ハプニング(happening)」です。

位置: 2,776

通過点にシーンの構造はありません。人物は何かをしようとして登場しますが、誰とも敵対せず、葛藤しません。  主人公にプレッシャーを与え続けたい反面、ずっと葛藤させ続けるには無理があります。たまには主人公の思いどおりに運ぶ場面もあるでしょう。

位置: 2,787

ハプニングは人々に接点をもたらします。これにもゴールや葛藤はないため、ドラマ的な「シーン」とは別物と考えます。  人物を登場させたり、情報を提示したりするために挿入する、ちょっとした出会いの場面などが「ハプニング」です。主人公や読者に息抜きをしてほしい時にも使えます。