【要約・感想】アウトラインから書く小説再入門 - K.M.ワイランド、シカ・マッケンジー

本の内容

内容紹介より

「アウトライン」とは、小説を執筆するうえでのロードマップ。最初にアウトラインを構築することこそが、小説を最後まで「書き切る」ための近道です。時間をかけてアウトラインを作ると、物語にバランスとまとまりが生まれる、伏線がうまく配置できる、主観が計画的に選べるなど、さまざまな成果が期待できます。  本書では、アメリカ在住の現役作家が、アウトライン構築にあたっての独自のメソッドをステップごとにナビゲートします。既に小説をたくさん書いている人には執筆術の「再入門」として、初めて書く人には基礎知識の習得に活用できる一冊です。

目次

  • chapter.1 アウトラインは必要か?
    • アウトラインについての、よくある四つの誤解
    • アウトラインで得られる七つの成果
    • ─著者に訊く
  • chapter. 2 アウトラインを作る前に
    • 個性と作品に合わせた方法を工夫しよう
    • 時系列に沿わないアウトラインの例
    • アウトラインのツール
    • ─著者に訊く
  • chapter.3 一文で物語を表す「プレミス」のまとめ方
    • 発想の幅を広げる「もしも(What if )」クエスチョン
    • 今、プレミスを書いておきたい六つの理由
    • プレミスを徹底的に生かす「アウトライン前」クエスチョン
    • ブレインストームで収穫を得るための五つのヒント
    • ─著者に訊く
  • chapter.4 全体の下書き(ゼネラル・スケッチ)……1|点と点をつなげる
    • シーン・リスト|とりあえず、今すぐに思い浮かぶシーンを挙げてみよう
    • 点つなぎ|マークした曖昧な部分のアイデア出しをしよう
    • ─著者に訊く
  • chapter. 5 全体の下書き(ゼネラル・スケッチ)……2|基本要素を見つける
    • 動機、欲望、ゴール|フィクションの中核をパワフルに据える
    • 対立/葛藤|これがなければ人物とプロットは存在しない
    • テーマには作者の真実が表れてこそ意味がある
    • ─著者に訊く
  • chapter. 6 人物像の下書き(キャラクター・スケッチ)……1|バックストーリーを作る
    • 本編をフル始動させる「インサイティング・イベント」の作り方、生かし方
    • プロットを豊かに広げる「バックストーリー」の作り方
    • バックストーリーの適度な使い方
    • ─著者に訊く
  • chapter. 7 人物像の下書き(キャラクター・スケッチ)……2|人物インタビュー
    • 人物像をくまなく作り込む「人物インタビュー・質問リスト」
    • 無口な人物の本音を引き出す「フリーハンド・インタビュー」
    • 〔表〕エニアグラム・チャート
    • ─著者に訊く
  • chapter. 8 舞台設定でユニークな世界観を作る
    • その舞台設定はストーリーとぴったり合っていますか?
    • 登場人物はその舞台設定にどう反応しますか?
    • その舞台設定から心理的に影響を受けますか?
    • 舞台設定が多すぎていませんか?
    • 世界観構築クエスチョン
    • ─著者に訊く
  • chapter. 9 詳細アウトラインで物語を育てる
    • あなたが書こうとしているのはどんなストーリー?
    • ストーリー構成のチェックポイント
    • あらゆるストーリーに欠かせない三つの要素
    • ストーリーを端正に仕上げる「フレーミング
    • 「このシーンは無駄」と言わせないドミノ式展開
    • ─著者に訊く
  • chapter.10 清書版アウトラインでロードマップを描く
    • すべてのシーンを整理し、評価しよう
    • 章やシーンの区切りを考えよう
    • 全体のリズム感を演出する配分調整
    • ─著者に訊く
  • chapter.11 アウトラインを活用しよう

感想

『ストラクチャーから書く小説再入門』」の前作となる本書。アウトライン=プロットの書き方について詳細に書いているので参考になるが、ある程度の前提知識があったほうがより理解が深まる。そのため、『ストラクチャーから書く小説再入門』のほうから読んだほうが良いのではと個人的には思う。

要約

プレミス

ストーリーを1文にまとめたものをプレミスと言う。これは、その作品のコンセプトでありアイデアのコアとなるものであり、そのため、アウトラインを書く前にプレミスを作る必要がある。

本書では、主要なシーンや登場人物、葛藤、結末などの構想がある程度固まったらプレミスを作るとありますが、プレミスを作りながら構想を練るという反復をしても良いかと思う。

プレミスを作るためのの発想法に、「もしも〜したら?(What if 〜 ?)」という疑問を投げかけるものがある。

位置: 474

ほとんどのプレミスは「もし~したら(What if)」という疑問で始まります。

•もし少年の知能が身体より早く発育したら? (オースン・スコット・カードの『エンダーズ・シャドウ』)

•もし孤児が見知らぬ富豪から巨額の遺産を贈られたら? (チャールズ・ディケンズの『大いなる遺産』)

•もし私たちの夢が実際に起きていることだとしたら? (私の小説『Dreamlander』)

位置: 479

「もし~したら?」という問いには創作を生むパワーがあります。「もしも」と明言されていなくても、つきつめればどんな小説や物語や記事にも「もし~したら?」が根底にあるはずです。

位置: 499

「もしも」のリストができたら、それぞれに対して「予測されること」を書きます。平均的な読者がこのストーリーを読んで予測しそうなことを、考えつく限り書き並べます。その予測を反転させれば「予想外の展開」となるはずです。

「もしも」のアイデアを洗い出し、どれを採用するかを決めれば、大筋のアウトラインが見えてくる。

位置: 531

プレミスを書くには主人公を決めなくてはなりません(できるだけ具体的に。先の例でも氏名、職業、性格の特徴が入っています)。これにメインの葛藤を付け加えれば、プロットの大筋が浮き上がります。「もしも」クエスチョンで得たアイデアを、プレミスの文でストーリーに落とし込みます。

位置: 566

プレミスをめぐる質問と共に、次の質問にも答えてみて下さい。

•プロット上の大きな出来事を四つか五つ挙げるとしたら何?

•それぞれの出来事に最低二点、ひねりを加えたら?

•ひねりを加えたバージョンは登場人物を何かに駆り立てるか?

•ひねりを加えたバージョンにはどんな舞台設定の追加が必要か?

•どの登場人物が主人公になりそうか?

•インサイティング・イベントに最も影響を受ける人物は誰か?

•その人物は人生において最低二つの大問題、あるいは不安を抱えているか? それらの問題のうち、最も強い葛藤やドラマを生むのはどれか?

•その問題は他の人物たちにどんな影響を及ぼすか?

全体の下書き - 点と点をつなげる

位置: 640

プレミスを船に載せたら、物語の海へ出航です。この航海を私は「全体の下書き(ゼネラル・スケッチ)」と呼んでいます。ここで行なうことは、これまでに出たアイデアを書き出してプロットの空白を見つけ、ストーリーのアークを点検すること。言い換えれば、アウトラインの大枠作りです。まだディテールは書きません。

次に、シーンをいくつか思い浮かべて、その要約を箇条書きにする。そして、何が足りないのかを洗い出す。

位置: 645

ストーリーについてすでにわかっていることを並べ、あらすじのようにして眺めながら、未定の部分をマークします。同時に多くの「もしも」と「なぜ」も考えます。なぜ人物はこんなことをするのか? なぜ彼女は過去に腹を立てているのか? なぜ彼は決定的な瞬間で意外な決断をするのか?

位置: 743

行き詰まったらQ&Aで扉を開く  創作にスランプはつきものです。煮詰まったら質問形式で考えましょう。「姫が塔に監禁されている」なら「どうすれば姫を塔から出せるか?」。疑問符を打つだけで、驚くほど発想が広がります。句点の「。」だと発想も行き止まり。「。」は思考を終わらせ、それ以上は説明不要という印です。それに対して「?」マークは無限の広がりを与えてくれます。

全体の下書き - 基本要素を見つける

点と点、シーンとシーンを繋いだら、物語の基本要素を深掘りしていく。

位置: 814

アウトラインが形になり始めたら「動機、欲望、ゴール、葛藤、テーマ」を意識します。これらの五要素をうまくプロットに当てられるか、早期に判断するほど長期的な作業が楽になります。

動機について。

位置: 842

派手なアクションで盛り上げようとしても、それなりの動機がないと読者はついてこれません。動機の設定はとても大事です。動機は必ずゴールと結び付きますから、障害や葛藤も見つけやすくなります。

欲望について。

位置: 857

フィクションを突き詰めていくと、その中核にあるのは主人公の欲望です。欲望がエネルギーを生み、主人公は一ページ、また一ページと障害を乗り越えます。ストーリーとは葛藤であるとよく言われますが、人物が何かを求め、何かにぶつからない限り葛藤は起きません。読者を惹きつけて離さない大作を書くには、それだけ強烈に何かを求める人物が必要です。

葛藤について。

位置: 906

ストーリーの原料として、かくも貴重な葛藤、対立。どうすれば作れるのでしょうか?  答えは簡単。人物の動機、欲望、ゴールを設定し、人物とゴールとの間に障害物を置くだけです。

位置: 965

大きなスケールでの葛藤(家族の危機、第三次世界大戦など)に加え、人物の心のせめぎあいも描くということ。シーンごとに対外的なバトル(障害に対する身体的、物理的なリアクション)と、内面のバトル(出来事に対する心理的、感情的なリアクション)の両方を描きましょう。どちらか一方が欠けたシーンは物足りない印象を生みがちです。

さらに、物語全体を貫くテーマについて。

位置: 1,000

物語にメッセージを込めることは、作者の信条や持論を書くことではありません。あなたが強く信じるテーマを選び、グレイゾーンでもがく人物を多面的に描くこと。そして、読者が厳しい問いを自分に投げかけたくなるようなプロットを作ることです。小説家の仕事は答えを提示することではなく、疑問を投げかけることだ、という言葉もあるほどです。

位置: 1,029

たいてい、一つのストーリーには複数のテーマがあるでしょう。その中から一つ、突出したものを見つけて中心に据えましょう。次の質問について考えながら選んでみて下さい。

•主人公の心の葛藤は? たいていアウトラインの初期で答えが出せる。ストーリーの原動力。

•ストーリー上の出来事で、主人公のどんな考えが変化する? どのように、なぜ変わる? 物語に潜むテーマはこの問いでわかる。人物の考えが行動を決め、その行動がストーリーを決める。

•ストーリーの最初と最後、主人公の考えや態度はどう表れる? 前の質問の延長だが重要。前に人物アークで述べたとおり、オープニングとエンディングでの人物のあり方を読者に提示する。

•テーマとそれに対する人物の態度を象徴するものは? テーマと同様、象徴による表現も自然に導き出される方がよい。たとえば特定の色やイメージの使用。効果的なものが見つかれば、後からでも表現にプラスできる(「象徴的な表現でテーマを強化する」の項を参照)

•テーマを明言せず、サブテクスト[言葉の裏に隠された意味]で表現するには? テーマは間接的に伝える方がパワフル。人は成長して考えが変わっても、すぐに言葉で表現できない。小説の登場人物も同じ。『ロード・ジム』は島を救う理由を言葉で説明する必要がない。作者がすべてを文章にしていたら、作品の力は弱まっていたはず。

テーマに関する質問の例。

位置: 1,044

欠点:クリス・レッドストンは自己中心的で無責任。冒険ばかり求め、周囲を傷つけていることに無頓着。

誰が傷ついている? 父親、ジョー、通りすがりの人たち、ブルック、リサ、マイク。

人物は何を求めている? クリスは夢を止めたい。

人物は何が必要? 責任ある行動をし、人々のために尽くすべき。

ストーリーの初め、彼が知っていることは? 人は無責任で他人を傷つける。人生は常に破滅と隣り合わせ。だから精一杯生きるしかない。痛みを忘れ、生きる実感を得るために無謀な行動に走る。無責任でいれば、誰も責任を求めない。あるいは誰かが傷つく。(人を傷つけないかという恐れを心の奥に隠している。口には出さない。)

ストーリーの初め、彼は何が間違っている? とにかく無責任でいれば人を傷つけないと考えている。命を危険にさらさないと生きている実感がわかないと思っている。

ストーリーを通して何を学ぶ? 自分の行動に責任を持ち、人のために行動すること。

主人公の中心的な問題:責任をとることは軽率な決断ではなく、時に魂の奥底から交わす約束であると理解すること。

テーマの指針:無責任な行動が二つの世界を危機に陥れ、青年は責任感に目覚めていく。

テーマ:人間として成功するには自らの行動に責任をとらねばならない。たとえ自分が一番好きなものを失なうとしても。

人物像の下書き(キャラクター・スケッチ)

位置: 1,110

全体の下書きでプロットとストーリー・アークの大枠をつかみ、当座のプロット上の空白を埋めたら「人物像の下書き」を、まずバックストーリーから始めます。ヘミングウェイは「氷山が見えるのは全体の八分の一だけ」と言い、語らない部分の重要性を説きました。

位置: 1,114

バックストーリーとは読んで字のごとく、本編の「裏にある」ストーリーです。本編が始まる前の物語であり、人物の決断や行動を生み出す源ですから、物語の進行や整合性作りに欠かせません。特に今は、時系列の途中から物語を始めるのがトレンド。バックストーリーは本編と同じぐらい重要です。

バックストーリーは全て語る必要はないもの。また、バックストーリーをほのめかすことは有効なテクニックである。

バックストーリーを考えるための✓リスト。

位置: 1,259

□インサイティング・イベントを見つける。

□人物のおおまかな背景を書く。

□主人公に影響を与えた人間関係を考える。

□登場人物の学歴、職歴、居住地や旅の履歴を考える。

□人物にとっての大きな出来事を考える。

また、登場人物に対してインタビューを行う「人物インタビュー」もバックストーリーや性格を考える上で使える手法である。人生観や性格の特徴(長所・短所)、よくする表現などいくつかの質問を考えると良い。

世界観

人物像が出来上がったら、世界観の深掘りである。風景、自然環境、社会・文化・宗教、人種、国家・政治、テクノロジー、歴史、世界の法則などを設定する。

位置: 1,478

ファンタジー作家パトリシア・C・リーデがまとめた「ファンタジー世界構築クエスチョン」もお勧めです(http://www.sfwa.org/2009/08/fantasy-worldbuilding-questions/〔英語〕)。

詳細アウトライン

ここまでで、アウトラインの大筋ができたので、次はそれを詳細にしていくプロセスである。また、このタイミングで主観を決めると良い。

位置: 1,622

主観の数は自由ですが、次に挙げるヒントで適度な数にまとめて下さい。

•主観をとる人物は、心情が表現されやすい。そのため、その人物が重要だとみなされる。

•複数の主観を使うと、読者は複数の人物の視点からものごとを見ることができる。

•主観をとる人物を増やすほど、読者の関心や愛着が分散する。

•いろいろな人物の主観をとればストーリーは寸断され、焦点がぼやける。

また、詳細アウトラインではフレーミングというテクニックも使える。

位置: 1,717

フレーミングとは、本編の最初と最後に揃いの表現を用いるテクニックです。作品にまとまりを持たせ、充実した読後感を演出できますので、忘れずに使いたいものです。オープニングで人物や舞台設定、テーマを特徴的に紹介し、エンディングで締めくくります。

シーンの見直し

詳細アウトラインができたら、シーンの見直しが必要となる。「このシーンは本当に必要か?」と考えていく。また、シーンを省略するテクニックも使えるか検討する。

位置: 1,903

シーンをどこで区切るかは作家にとって重大な課題です。登場人物やストーリーがいくら華麗で魅力的でも、章やシーンの区切りで「続きが読みたい」と読者が思わなければ水の泡。全部をクリフハンガーにする必要はありませんが、読者に強い好奇心を抱かせる終わり方が必要です。

位置: 1,952

ブランドン・サンダースンファンタジー小説『エラントリス』で「シーン割り」をし、もたつきをすっきり取り去っています。目立たないけれど、非常に有効な手法です。  サンダースンの作品はどれも大作で、およそ七百ページに迫ります。ともすればその倍の厚さになりそうなところを、うまくカットしているのです。主観や舞台の変わり目だけでなく、さりげないところもカットしてつないでいます。たとえば、悪者が長い階段を上るところを短く描写できそうであっても、シーンを変えることによってばっさりと削除し、縮めています。その結果、ストーリーの贅肉は落とされ、ペースもアップ。タイトですっきりした展開をしています。